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一番下へ行く

[変人百面相]
7月31日(木)24:45


もう買わない。 と、思ってたけど、
今週号のバックステージ(俳優新聞)を買ってしまった。

 何か有用なオーディション情報は載ってるかな・・・

俺が応募できそうなのは・・・・・・5個、あった。
うむ。5個ならば許そう。よくぞやった!褒めてつかわす。

さて、その5個の中に、このように書かれたのが1つあった。

 ヘッドショット(写真)と、履歴書、
 そして、今の状態に一番近い普通サイズの写真を送って下さい。

この「普通サイズの写真を送れ」という記述は、良く見掛ける。
送られて来た「ヘッドショット」と、「実際の見た目」が掛け離れた人が多いからだろうか?

・・・まぁ、俺もその一人なわけだけど。

坊主頭にしてから、普通サイズの写真は撮っていない。
良い機会なので、新しいヘッドショット撮影の予行練習も兼ねて、撮っておく事にした。

応募しようとしている役は、「ボディーガード」の役だ。
ここは、黒のスーツにした方がいいだろう。

 黒のスーツ・・・黒のスーツ・・・あった、これだ。

見つけたのは、2年前に古着屋で買ったスーツ。

よーし。これで行こう。


スーツに着替えて外に出た頃には
日は大きく傾き、夕日が眩しく照らしていた。

眩しい・・・ ちゃんと目を開けられるだろうか・・・


だが、問題は夕日じゃなかった。

・・・俺のスーツの上下の色が、明かに違うじゃないか!!

屋内で見た時は、確かに両方とも「黒」だった。
でも、今のズボンは夕日に照らされて真っ赤になってしまっている。

おそらく、生地が違ったせいだろう。
・・・安物なので、仕方無いか。12$のスーツだし。


 撮影を始めよう。

カメラマンは、大家さんのジャッキーだ。


さて、このスーツ。
上下の色が違うわけだけど、問題はそれだけではない。

実は上着のサイズがブカブカなんだ。

はっはー!ダイエットの成果だ!!


・・・いや、それにしてもブカブカ過ぎる。
仕方が無いので、安全ピンで背中を絞る事にした。


正面からは、まともに見えても・・・

 (クリックで拡大)



後ろは、とても見せられない。

 (クリックで拡大)



スーツ姿で「ボディーガード役」用の写真を何枚も撮ったけど、
それだけでは汎用性に欠ける。

ボディーガードの役じゃない時の事を考えなければ。


とりあえず、上着を脱ぐ事にした。


 (クリックで拡大)


笑っているだけでは、どうもつまらない。
何かできないかな・・・

そう思っていると、ジャッキーが言った。


ジャッキー「何か、手を使ってやってみたら?」

ユウキ「手?」

ジャッキー「そう。手を使って。」





 (クリックで拡大)



ジャッキー「・・・いや、そういう意味じゃなくて。」

ユウキ「ああ、ジェスチャーを付けろって意味ね。」

ジャッキー「じゃあさ、俺が言った職業をやってみてよ」

ユウキ「あい、分かった。」



ジャッキー 「釣り人」


 (クリックで拡大)



ジャッキー「野球選手」


 (クリックで拡大)



ジャッキー「ゴルファー」


 (クリックで拡大)



ジャッキー「二児の父親」


 (クリックで拡大)



ジャッキー「餓えて死にそう」


 (クリックで拡大)



ジャッキー「サムライ」


 (クリックで拡大)



「二児の父親」のどこが職業だ。

なんてこった。
気が付いたら、汎用性の無い写真ばっかりに。

デジカメじゃなくて、フィルムで撮った方は上手く撮れてるかな?
早速、「自分の車」で現像に出して来よう。

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一言

今日は朝にパンを三枚しか食べなかったので、
リハーサル前に燃料が尽きた。
久しぶりにフライドチキンを食べて、
元気100倍!肉はいいね
リバウンドこえーけど


[見えない変化]
7月30日(水)24:08


今日の舞台劇「デッドライン」のリハーサルは
何の変哲も無い進み方だった。

まずは一度台本を通したあと、
クリ%9!J4FFD!K$,8DJL$KCmJ8$r8@$C$F!"$^$?DL$9!#

特に変わった所の無い、「普通」のリハーサルだ。


だが、俺の中身は「普通」ではなかった。


劇中のキャラクターの「日常」を知った今、
人間関係はリアルさを増し、言葉は意味を伴って口から出る。

セリフを言う時、ロン(俺の役)がどんな事を考えているか、
それが手に取るように感じられる。

前回の即興演技の効果がここまで強烈に効いてくるとは、思わなかった。
全く同じセリフを喋っていても、今までの「ロン」とは別人だ。


今までの「ロン」は、

自分以外の事を気にせず、
怒鳴り散らすだけ怒鳴り

ハッキリ言って、舞台の上で「一人劇」をしていたと断言していい。


だが、ここにいる「ロン」は

他の人が何を考えているかを気に留め
何故自分が怒鳴っているかを深く考え、

他の人のセリフの意味を考えて、それに反応している。


この「ロン」は、生きている。そこに存在している。


「即興演技」は凄い。凄いぞ。

文字に書かれていない事を読む、とは、こういう事だったのか・・・

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[冷えないので、冷える]
7月29日(火)11:12pm


朝食を食べようと、冷凍保存していたご飯を出すために冷凍庫を開けると、
そこは洪水だった。

・・・なんじゃこりゃ!

手を入れてみると、全く冷たくない。
氷は全て溶けて、中は水浸しだ。

扉はちゃんと閉まってた。ガスでも抜けたかな?

大家さんのジャッキーが業者の人に連絡したけど、
いつ修理に来てくれるのか分からない。

うーん困った。保存食が駄目になってしまう。

冷凍ご飯、冷凍ギョウザ、冷凍肉、冷凍納豆、冷凍果実、
どれも貴重な食資源だ。

ただでさえ、ヘッドショットや車の経費で金が必要なのに、
このうえ食費まで膨らんだら・・・どうしたもんか。



一日一食の生活と、筋トレで体重は順調に減っている。
今の体重は182ポンド(81.9kg)だ。

今月の15日は189ポンド(85.5kg)だったので、
13日間で3.6kg落ちた計算になる。

このペースで落ち続ければ、来年の今頃の体重は−19kgだ。

やほーい 宙に浮けるぞ!


無理だ。

この先に待っているのは、リバウンドとの闘い。

当然勝つ。

ジャンクフードも食べず、
酒も飲まず、
時に暴飲暴食をする俺が負けるハズがないではないか!


180ポンド前後の体重を維持し、頑張ろうと思う。

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[即興、そして個性]
7月28日(月)11:10pm


今日も舞台劇「デッドライン」のリハーサルだったけど、
いつもとは、少し違った。

クリス(監督)は何と「即興演技」を求めて来たんだ。

「即興演技」とは要するに全部アドリブで演技する事で、台本は存在しない。
自分のキャラクターに完全に成りきって、喋らなければならないワケだ。

俺の「即興演技」のシーンは、
  サム :このバーを経営しているベトナム人。ホテル経営も兼ねる。
  リリー:ホテル住込みの売春婦
  タム :サムの下働き
  ロン :ベトナム人の将校。このバーに良く来る。
という4人で行う事となった。

俺のキャラは、もちろん4番目の「ロン」だ。

さて、この「即興演技」に用意されたシチュエーションはこうだ。
  「サム」がバーに座っていると、
  住込みの「リリー」が上の階から降りてきて、
  「タム」も降りてきて、
  「ロン」がバーに入って来る。


・・・何ともシンプルじゃないか!


このシンプルなシチュエーションの上で、クリスはこのような注文をする。


クリス「ロンは、いつものようにバーに入る。
    そこには、3人の人間がいる。
    幼い頃から自分を知っているサム、
    いつも『お世話』になっているリリー、
    サムの手助けをしているタム、 の3人だ。

    ロンは、カトリックの裕福な家庭に育った。
    しかし、14歳の時に両親をベトコンによって殺され、
    路上生活をするハメになる。
    そこで、ギャングや多くの子分を従え、
    悪事に手を染めていった。
    その後、軍に入隊し、現在に至っている。
    
    まず、バーに入ったら、普通にサムと会話をするが、
    プライベートな会話が始まったら
    タムを厨房に追いやってくれ。
    それからしばらくしたら、リリーを二階へやってくれ。
    そしてサムとしばらく話したら、自分も二階へ行ってくれ。」


この注文は、俺だけに、個別で行われた。

他の人はこの「注文」を知らないし、
俺もクリスが他の人に何を言ったのか、全然分からない。



・・・即興演技が始まったらどんなセリフを言おうかな?

・・・最初は普通に挨拶から始めた方がいいかな?

・・・どうやってタムを厨房に追いやろうかな?


・・・・・・いや、この考え方は捨てるべきだ。

あらかじめ言うべき事が決まってないから「即興」なのであって、
それを決めてしまったら意味が無い。

シチュエーションに身を委ねて、口から出る言葉をそのまま言うんだ。


即興演技が始まった。

俺はバーに入る。

そこには三人のベトナム人がいて、
珍しい事に、いつもいるアメリカ人の記者はいなかった。

俺の口から最初に出た言葉は

ロン「フン。いつものアメリカ人がいないな。」

だった。


サム「ロン大佐、こんにちわ」

ロン「ああ。」

サム「今、色々な事について話していたんです。」

ロン「それより何か冷たい飲み物をくれないか」

サム「今は丁度切らしてるんです。すみません。
    それより、・・・どうです?一緒に少し話しませんか?」

ロン「・・・いいだろう」

こうして俺達は即興で話し始めた。


サムを演じているのは、カーリーという熟年の俳優だ。
彼は俳優歴数十年のベテランで、色々な事を熟知している。

即興で話している間、カーリーは完全に主導権を握っていた。
話題を進めるのもカーリー、
その合間に皆に意見を求めるのもカーリー、
持論を展開するのもカーリー・・・


俺は・・・というと、カーリーに相槌を打ったり、反論したり、
自分の境遇を言ったりするのに精一杯だ。

何か言いたい事があっても、それを言う頃には話題が進んでしまっている。
これは悔しい。情けない。



「即興演技」が終わると、
自分の役が「リアルさ」を得たのに気付く。

セリフの一つ一つの裏には「日常」という「背景」が存在し、
劇中の人間関係はその「日常」の上に成り立っている事を、強烈に意識し始める。


ベテラン俳優「カーリー」は言う。


カーリー「大事なのは、自分になる事。」


その通りだ。

だけど、ここでまた「ステレオタイプ 対 自然な演技」という構図が出てしまう。

監督が求めているのが「ステレオタイプ」な演技である場合、どうすればいいんだろう。
そこで「自然な演技」をしたら、監督の求めている物ではないので、
役を降ろされてしまうのではないか。

誰かに答えを教えられて「はいそうですね」と言える問いでもない。

いつか自分の答えは見つかるだろうか。

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[ヘッドショットという武器]
7月27日(日)24:18


エージェントを手に入れるべく、
自分の履歴書とヘッドショット(顔写真)を見直す事にした。


まずは履歴書だ。

エージェント歴10数年のプロが手掛けた
「見本」が載っている雑誌を持っているので、それを参考に一から再構築する。


「俳優の履歴書」は、日本で言うところの「履歴書」とは全然違って、
そこには学歴を書く欄も、出身を書く欄も存在しない。

必要とされる情報は「俳優としての経験」だけで、
年齢も、家族構成も全く必要無いんだ。

「実年齢」よりも「見た目の年齢」の方が重要だからね。



さて、その「俳優の履歴書」には、どのような事が書いてあるのか。



「最低限 書かなければならない事」はだいたい決まっていて、
それはこんな風に構成されている。

   

ヘッドショット(顔写真)は白黒なので、
目の色と髪の色も書かなければならない。

一番目立つ位置にあるのは、もちろん「自分の名前」だ。
これが無きゃ、何も始まらない。


・・・俺の「履歴書」も、これに沿って作り直した。
今まで使っていたのに比べると、少し見易くなった感じがする。
「出演した映画」の一番上に書いてあるのは、・・・「ラストサムライ」だ!




さて、「履歴書」はもちろん重要だけど、
何よりも極めて重要なのは「ヘッドショット(顔写真)」だ。

エージェントはヘッドショットを見た瞬間、
 「自分が既に似たような俳優を受け持っているかどうか」
 「その俳優と契約したいかどうか」
 「その俳優を売り出す事ができるかどうか」
というような事を視覚的な直感でもって感じるらしい。


だから、ヘッドショットは「印象的」で、そして「正確」でなければならない。


「正確である」というのは、「今の自分と同じである」という事だ。

エージェントは、ヘッドショットを見て俳優を面接に呼ぶのだけれど、
そこで期待しているのは、「ヘッドショットと同じ人物」の登場だ。
 ヘッドショットでは絶世の美人なのに、実物は・・・・・・
なんて事が良くあるらしいのだ。


 「自分のありのままを、できるだけ正確に、魅力的に写した物」


それがヘッドショットなんだ。



・・・ところで、俺のヘッドショットを見てみよう。

(クリックで拡大)


・・・うわぁぁぁ! なんじゃこりゃぁ!


今の俺は 「坊主頭」 だ。
このヘッドショットは、全く正確じゃない。

これは撮り直す必要がある。

1年半もの間、同じヘッドショットを使い続けている事自体が
既にまずかったんだけどね。


ヘッドショットの撮影は、フィルム3本につき300$が相場だ。
印刷に50$ぐらい掛かる事を考えると、かなりのお金が掛かる。

・・・金の沸く泉があればなぁ・・・

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[上質な燃料を]
7月26日(土)10:24pm


今日は朝の10時から舞台劇【デッドライン】のリハーサルだ。

早起きはキツイ。
朝からのリハーサルにテンションを高く保ったまま参加できるだろうか?

こういう時は、何か元気の出る美味い物を食べるに限る。
「元気の出る美味い物」・・・よし。あれにしよう。


 ・・・今日の朝食は、宮崎の郷土料理「冷汁(ひやじる)」だ!


「冷汁」とは、俗に言う「猫まんま」が発展したような料理だ。

・・・でも、「冷汁」なんて作った事も無い。
どうやって作ればいいんだろう?


とりあえず、材料を揃えてみた。


 <材料>

魚の身     適量
とうふ      適量
だし入り味噌  適量
ごま       適量
きゅうり     適量
大葉       適量
ねぎ       適量
水        適量






 <作り方>

1、魚の身(適量)に火を通し、ほぐします。






2、火を通した魚の身、ごま、だし入り味噌、水を 「すりこぎ」で・・・
  ・・・は、無いので、「ミキサー」にぶち込みます。






3、攪拌(かくはん)した物を、ボウルに移し変えて・・・






4、薄く輪切りにしたきゅうり、千切りした大葉・ねぎ、
  手でちぎった豆腐をぶち込んで・・・






5、かき混ぜた物を「冷蔵庫で冷やし」、ご飯の上にぶっ掛ける。






   「冷汁のようなもの」完成!


 ※この作り方での味の保証はしません



見た目が不味そう? ゲ○みたいに見える?
馬鹿言っちゃいけません。問題は「味」なのですよ。

その肝心の味の方は・・・!

    ・・・まぁ、こんな物だろう。

長い間食べてないので、本来の味がわからない。
でも、元気が出たのは確かだ。張り切って行って来るか!



朝の7時に起きて、「冷汁」食べて、颯爽と「自分の車」に・・・


  ・・・いや、まだだ。


自車登録も、保険加入も済ませていない車に乗るのには勇気がいる。
もしも警察に捕まったら、法外な罰金を取られてしまう。

今日は、デッドラインのキャストの一人が迎えに来てくれるので、
それに甘える事にしよう。


「シアター劇場」に到着したのは、9時半だった。
リハは10時からなので、当然のごとく誰も居ない。

暇なので、B劇場の間取りを見て回る事にした。


B劇場は大体、このような間取りになっていた。



劇場に入って正面に客席、左手に舞台。
観客席から見て左側に「控え室」があり、「舞台袖」は殆ど存在しない。

去年公演した「宝石箱劇場」と大きく違うのは、「入場口」の位置だろう。

「宝石箱劇場」は、舞台の後ろに「舞台裏」があった。
そして「舞台裏から舞台への入場口」は左右にあり、
下手(しもて)・上手(かみて)に分ける事ができた。

だが、「シアター劇場」の入場口は、左側にしかない。

左右の2つだった入場口が、
前後の2つに変わったのだから、演出的にも影響して来るだろう。



発声練習をしているうちに、10時になった。

キャストは集まって来ているが、肝心のクリス(監督)はまだ来ない。
10時30分を過ぎて、彼はやっと来た・・・

クリス「いやぁ、悪い悪い。新しい台本を印刷する為に
    印刷所行って来たんだけど、そこが開くのが10時でね。」

手には、赤い表紙の台本をたくさん抱えている。
どうやら、最新の台本を印刷してたので遅れたようだ。

主要キャストにそれを配ると、リハーサルが始まった。


みんな、まだ台本に慣れていないので、
どうしても、読み方が単調になってしまう。

それを聞いていると、早起きした事もあって睡魔が・・・・・




  ・・・・・・イカンイカン 顔を洗って来よう。


顔を洗って帰って来ると、もうすぐ俺のシーンだ。

俺のシーンは動きが激しいので、
準備体操をしておかないと、とても危ない。

入念に柔軟体操をする。

「殴られ役」のウィーと、
しつこい程「アイコンタクト」の確認をした後、俺達のシーンを演じた。

もう何遍も練習しているので、
どのような方向から殴り、どのように立ち回るかも、大体分かっている。


お昼に15分の休憩を取り、2時まで何度も台本を通す。

全体的にまだ声が小さいので、もっと大きな声で喋らなきゃ聞こえないだろう。
舞台と観客の間はこれだけしか離れてないんだけどね。



リーディングの時は、
 「このキャストで大丈夫かな・・・」
と不安だったけど、大分良くなって来たように思う。

まだまだ練習は続く。気を抜かないで頑張って行こうと思う。

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[三度目の正直合戦]
7月25日(金)08:57pm


運転免許の実地試験を受ける為、バスを待つ。
もう30分近く待っているのだけれど、一向に来る気配が無い。

この「待つ」という行為を、どれだけ繰り返しただろうか。
NYの地下鉄、LAのバス、
この三年間、待たされてばかりいた。

でも、その「待ち」の人生も今日で終わりだ。
今日からは「攻め」の人生へと変わるのだ!

その為には、まず免許試験に受かる必要があるわけで・・・


やっと来たバスに乗り込み、
電車に乗り換えてロングビーチに着いたのは1時30分だった。

試験は2時30分から始まるので、1時間のウォーミングアップ運転。

・・・なかなか良い感じだ。
過去に指摘された欠点は、既に克服している。

予約した時間まで、あと10分。
試験場へ車を走らせると、受付を済ませ、試験官が現れるのを待った。


 今回はどんな試験官に当たるんだろう・・・


自分の運転よりも、そっちの方が気に掛かる。
1時間待たされた後、やっと出てきた試験官は・・・女性だ!

 ローラか!?・・・いや、違うようだ。


試験官「えーと、あなたの名前は・・・ユーキね。
     ・・・ユーキ で、発音合ってるかしら?」

ユウキ「合ってるよ。完璧。あなたの名前は・・・」

試験官「デビーよ」

ユウキ「よろしく、デビー」

デビー「始める前に、何か質問はあるかしら」


・・・そうだった! 「アレ」を言っておかなければ


ユウキ「そう。僕は日本語でテストを受けて、そして合格したんだ。
     だから、専門用語を英語で早く言われると
     意味が分からなくなってしまうんだ。
     だから、試験で指示を出す時は、
     できるだけ ゆっくり喋ってくれると助かるんだけど・・・」

デビー「ええ、いいわよ。
     できる限りゆっくり、分かりやすく喋るようにするわ。」


よっしゃあ! なんだ、みんな親切な人ばかりじゃないか!
最初の試験の運が悪過ぎたのかな。


書類にサインを済ませ、装備チェックの後、手信号を確認する。
ここまでは完璧だ。  助手席に乗り込むデビー。


デビー「それでは試験を始めましょう。
     エンジンをスタートさせて、前進し、
     そこの角を左折してして下さい。」


 ・・・こうして、三度目の試験が始まった。


一般道に出て、最初の指示は「信号で右折する事」だった。
信号は・・・赤だ。

前回の試験では、これで落ちた。
今回は大丈夫。二度同じミスを犯したりなんてしないさ。


停止線でしっかりと一旦停止をした後、
左右を良く確認し、右折。

 ・・・完璧だ。

非の打ち所がない、美しい右折だった。
デビーもさぞ驚いた事であろう。
運転の教本に載せてもいい。プロ級の・・・極上の右折だ。


だが、非常に残念な事に、右折だけでは試験は終わらない。

 交差点での右折・左折
 左右への車線変更
 住宅エリア・ビジネスエリアでの走行
 路肩への駐車
 最高速度・最低速度
 一旦停止

俺は、常に最大限の注意を払って走行した。


デビー「では、試験場に戻りましょう。」


・・・いよいよ、運命の時がやってきた。



     だが、その瞬間!

俺はデビーの持っている採点用紙をチラッと見てしまった!

そこには、何かたくさん書き込まれているように見える。

     ま・・・まさか・・・



車が完全に停止してから、デビーは言った。


デビー「ええっと、交差点では、左右をしっかりと確認してから
     横断するようにしましょうね。」

ユウキ「はい」

デビー「左折する時、少しゆっくり過ぎるように感じました。
     もう少しすみやかに曲がれるようにしましょう。」

ユウキ「はい」





デビー「・・・問題はそれぐらいですね。
      
      おめでとう。  合格  です。 」


うおぉぉぉぉ〜〜〜〜〜!!! 合格だぁぁ〜〜〜!!
ぽげらぱめらぽんぽこぽ〜ん! ぼよんぼよよ〜ん!

デビーと共に一度試験場の中に入り。
免許が届くまでの代わりになる用紙を受け取った。

まるで地に足が着いて無いかのように浮かれている。
やった やった やった やった やった

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一言

衛星チャンネルのTOONネートワークで
「ルパン三世」を放映していた。
キャラの名前が
日本語版と同じだったのが嬉しかった。


[女神は微笑むか]
7月24日(木)24:00


明日はいよいよ三度目の運転免許の実地試験だ。

明日の試験の重要度は、過去2回の試験とは比較にならない。
前回までは落ちても「次回」があった。だけど今度の試験に「次回」は無い。

落ちたらまた筆記試験に逆戻りになってしまう。
それによって失う時間は、2週間を下らないだろう。

絶対に落ちるわけにはいかない。
受かって、前に進むんだ。

 赤信号時の右折は、一旦停止を怠らない事。
 右折、左折時には、左右の確認を怠らない事。
 最高速度、最低速度に注意する事。
 停止線の手前で止る事。
 車線変更時は、周りの状況を良く確認する事。

大丈夫。今度こそ、受かる! 多分!

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[拳の中にある責任]
7月23日(水)24:23


朝食を食べていると、
舞台劇【デッドライン】の監督、クリスから電話が掛かってきた。

クリス「ユウキ、今日リハーサルがあるんだ。」

ユウキ「ええ!今日!?」

クリス「そう、今日!・・・何か予定が入ってる?」

ユウキ「いや、特に無いけど」

クリス「場所はシアター劇場で、6時45分に集合。頼んだよ。」


バスに飛び乗って、シアター劇場へ


到着したのは6時35分だった。・・・良かった。間に合った!
C劇場のソファに座って時間を潰す。

だけど、45分になってもクリス(監督)もダーン(プロデューサー)も現れない。

 場所を間違えたかな?

そうじゃなかった。彼等が遅刻しただけだったんだ。

前回のミーティング
 「集合時間が45分ならば、45分には始められるようにすべき」
と熱弁していた2人が揃って遅刻。・・・これで示しが付くワケがない。


マネージャーのレブリーから配られた「リハーサル予定表」を確認した後、
いよいよリハーサルの始まりだ。


2つのグループに分かれ、それぞれのシーンを練習する。
俺は、「ロン大佐」とベトナム人少年「タム」の格闘シーンの練習をする事になった。

このシーンには、嫌な思い出がある。
俺は去年、この格闘シーンのリハーサルで気を抜いて、
相手役の鼻を殴ってしまった事があるんだ。

もう二度と、あんな事を起してはならない。

まして、「タム」を演じるのは演技初心者の「ウィー」だ。
何度も練習を重ねないと、大事故に繋がりかねない。

 一番大事なのは、アイコンタクト。そして安全を一番に考える事。

ウィーとアイコンタクトの練習を重ね、息を合わせていく。

リハーサルルームには冷房が無く、窓も無いので恐ろしく暑い。
でも、俺達2人は汗を拭うのも忘れて練習を続けた。

・・・2時間が過ぎて、格闘シーンはカタチになってきた。

クリス「素晴らしい!2人共、頑張ってるね。」

クリスも満足げだ。
この調子なら、本番までにはシーンを完成させる事ができるだろう。

時間は驚くほど早く過ぎ去り、
あっと言う間に「初めてのリハーサル」は終わった。

昨日感じていた焦燥感は一時的に消えさり、心地よい充実感と疲労感を感じている。

今日は良く眠れそうだ。

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[離陸前の一時]
7月22日(火)10:37pm


昨晩は夜更かしをしてしまい、布団に入ったのは朝の7時だった。

習慣とは恐ろしいもんで、
最近は寝る前には筋トレをして、水シャワーを浴びないと寝付けない。

その筋トレに2〜3時間掛かるのも、寝るのが遅くなった一因だ。

疲れ切って爆睡していると、電話の音で起された。
大家さんが注文した冷蔵庫が届くので、それを受けとって欲しいとの事。

眠たい目をこすって、冷蔵庫の搬入を手伝う。



運転免許の試験まで、あと3日。
この3日という時間を有効に使うにはどうしたらいいだろう。

時間を持て余して、無駄に過ごすワケにはいか$s!#

とりあえず筋トレで身体を鍛えても、
物足りなさというか、焦燥感は消えない。

この焦燥感を消す為、1日に1つでもいい。何か行動したい。


今の俺にできる事、それはいくつかある。

 ・ モノローグ(一人芝居)の練習
 ・ エージェントへのカバーレターを完成させる
 ・ ヘッドショットを完成させる
 ・ エージェントのリストを仕入れる

などが主な事だろうか。


よし。・・・決めた!
今日はカバーレターについて勉強する事にする。

明日も何か行おう。


この三日間の過ごし方で、その後の身の振り方が決まるように思えるのは、
俺が焦っているからだろうか。

もしもそうなら、常に焦っていた方が自分の為かも。

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一言

HPの容量が一杯になってきた。
移転先を探さなきゃ


[記録のお供に]
7月21日(月)25:25


渡米してから3年が経った。
この3年間、様々な事を経験し、記録してきた。

自分が経験した事を、寸分違わず思い出すのは難しく、
思い出してみても、記憶に「もや」が掛かっていたり、曖昧になっていたりする。

でも、日記として文字に起す事で、
経験は形となり、いつまでも残る事となった。


それを助けてくれたのが、これらのノートだ。

(画像を読込中かも)


今年で10冊目だ。


でも、これは他人に読ませる事を意識してないので、
俺にしか読めない文字で書かれている。

 (クリックで少し拡大)


ちなみに、これは2000年11月24日の日記の原文。
読めるかな

これで、「読み易い日記」を選んだつもりなんだから、
「読み難い日記」がどんなのか、想像できるってもんだ。

でも、最初のうちは、もう少しキレイな文字だったような気がする。

一番最初の日記を読み返してみる。


その原文
(クリックで少し拡大)

む・・・文字は相変わらず汚いが、確かに読み易いかも。



最近は、トイレの中で日記を書くのが習慣になっている。
トイレの中は、思い出したり考えたりするのに最適の場所だ。

いざ、今日もトイレに向かおう。

今、家のトイレへ向けて旅立ちます。もう後には引けません(戻るつもりはないけど)。これからも日記をつけます。アメリカでの時間が横に滑らないように、縦に積み重なるように・・・(カッコエエ─!!!)


まだまだ先は長そうだけど、しっかり記録して行こうと思う。

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[誇りに賭けても!]
7月20日(日)24:39


俺は、世界記録保持者だったりする。

・・・そんな馬鹿な!と思うでしょう。
だけど、何故か持っているのです。

 それは何か!

それは・・・  「とうふ早食い」の世界記録

昨年の「とうふ早食い競争」で、「21秒」という記録を達成し、
この偉業を成し遂げたのだけれど、
ここまで誇れない世界記録も珍しいだろう。


 そう、今年もその季節がやって来たのです!


今年の「とうふ祭」の開催日を知ったのは、つい一週間ほど前だった。
去年は8月に開催されたので、、
今年は7月にあるとは想像してなくて、完全に油断していた。

家に帰ってから、大家さんのジャッキーにその事を伝える。

ジャッキー「本当かい!?それは大変だ!
       すぐに『とうふ早食い競争』にエントリーしなくちゃ!」

ジャッキーも燃えている!
去年は俺に負けて二位となったので、今年はリベンジを誓っていたのだ。

「とうふ祭実行委員会」に電話で問い合わせると、
直接会場に行ってエントリーしてくれ、との事。

俺とジャッキーは、大会当日に向けて、
全身全霊を賭けて備える事となった。




真夏日の照り付けるような太陽の下、
リトル東京にある巨大駐車場で、「とうふ祭」は行われた。

去年は入場料がたったの2$だったのに、
今年は何と8$になっていた!

この差はデカい。
祭の内容は殆ど変わってないのに、どうして入場料だけ4倍なんだろうか?


しぶしぶと、8$の入場料を払って中に入る。
高い入場料にも関わらず、会場中はたくさんの人でごった返していた。

(画像を読込中かも)



真っ先にインフォメーションセンターへ向かい、
「豆腐早食い競争」のエントリーを済ませる。

これで準備は万全だ!後は始まるのを待つだけ!




さて、昨年は、

「紺の着物」に、「下駄」、背中には「祭うちわ」を刺して、
首には「豆絞り(手ぬぐい)」、そして後頭部には「ひょっとこの面」。

という格好をしていたのだけど、今年は少し違う。
暑い天候もあって、少し涼しい格好になった。


今年は、

「紺の甚平」に、「草履」、手には「扇子」を持って、
首には「紺の手ぬぐい」、そして後頭部には「ひょっとこの面」。

という具合だ。


別に何てことは無い。「ただの夏涼みの格好」だ。







   (画像を読込中かも)

    「ただの夏涼みの格好」だ。



実に普通の格好をしているのだが、アメリカでは少し珍しいようだ。
通りすがる人々が、珍獣でも見るかのように振り返る。

多分、見慣れていないからだろう。
これは俺が渡米した格好と、殆ど変わらない。というか、ほぼ同じだ。


涼しい格好をしていても、夏の太陽は容赦してくれない。
暑い・・・暑すぎる。

そんな俺をあざ笑うかのように、目の前には「かき氷」屋が・・・
・・・「宇治金時」。駄目だ。限界です。宇治金時一つ下さい。

暑さに負けて、「宇治金時」を頬張る。
見た目よりもかなりボリュームがあって、腹が少し膨れた。

そんな俺に、ジャッキーが勝ち誇ったように言った

ジャッキー「はっは〜。ユウキ。この勝負、俺の勝ちだね。」

・・・しまった!!忘れていた!
今、腹を膨らましてどうするんだ!



3時近くになって、ステージ近くへと移動する。

ステージの上では、まだ太鼓の演奏が続いていて、
多くの人々が耳を傾けていた。




ステージ脇には、「とうふ早食い競争」の参加者が続々と集まって来ている。
その参加者の中に、一人の男性がいた。
彼は俺を見つけると、言った。

男性「おおお!来たーー!!チャンピオンの登場だ!」

何と覚えられていた!聞くと、彼は去年は3位だったそうだ。
今年こそは負けまいと、またも挑戦しに来たってワケだ。


俺と、ジャッキーと、去年3位の男性は、この競技の辛さを良く知っている。
だけど、初挑戦の人達は気楽なもんだ。

「こんなの楽勝だろ」「ホットドッグよりかは簡単だと思う」
「決勝には余裕で進めると思う」「まぁ、見てなって」


ステージの上では、子供の部が始まろうとしていた。
競技開始の前に、現在の「世界記録が告げられる」

主催者「現在の世界記録は、25秒です。」


・・・アレ?ちょっと待って。 今、25秒って言わなかった?
俺の去年の記録は、「21秒」だ。記録が後退してるんだけど・・・

どうせ、何の意味も持たない世界記録なので、突っ込まない事にした。



そう言っているうちに、「子供の部」が終わった。
続いて「女性の部」。そしていよいよ「男性の部」だ。

「男性の部」は、2つのチームに分けられた。

各チームの上位2名しか決勝に進めないと分かっていたので、
俺と、ジャッキーと、去年3位の男性は、
違うチームに入ろうと策を巡らせていた。

だが、主催者に見抜かれた!
・・・見事に、3人とも2チーム目へ。

こうなれば仕方がない。覚悟を決めるしかない。


「男性の部」、1チーム目の競技が終わった。
1着の男性の記録は、35秒だった。

上位2着が決まった所で、レースは終了。



そして、いよいよ俺達の出番がやってきた!

俺は2チーム目の先頭だったので、一番端の席に着席した。
隣はジャッキー、その隣は去年3位の男性だ。





席に着くと、白いトレイに入った「一丁とうふ」が運ばれて来る。
その後、簡単なルール説明。 「手を使ってはいけません。」

そして、一人づつ選手紹介だ。名前と、出身を簡単に言う。

 「ユウキ。日本からです。」

そう言うと、客席から拍手が起こった。


全ての選手の紹介が終わった後、司会者が俺の所に戻って来て言った。

司会者「このユウキが、去年のチャンピオンであり!
     今年はタイトル防衛の為に戦います!」

客席から拍手があがる。
それを聞きながら、俺は「ひょっとこの面」を頭頂部に「装着」した。

何故って?それはレースの様子を見れば分かるハズだ。


司会者「それでは準備も出来たようなので、始めましょう。
     みなさん、手を後ろに回して下さい。
     食べ終わった人は、席から立ちあがって下さいね。
     それでは・・・ようい、スタート!」


そしてレースは始まった!

(クリックで少し拡大)


俺は、無我夢中でとうふを口に頬張った。
口の中に入れた後は、噛まずに飲み込む。

「絹ごし豆腐」ならそれが簡単なのだけれど、
「木綿豆腐」なのでそうはいかない。

中々良い調子で80%ぐらいまで進んだのだが、
胃の中の「何か」のせいで、急に勢いが止った。

   ・・・宇治金時だ!

食道まで一度行った豆腐が逆流し、口に戻って来る。
うおぉうっぷ。吐くな!吐いたら終わりだ。

力づくでそれを押し戻し、
その勢いで一気に残りの豆腐をたいらげる。

トレイが空になったところで、俺は立ちあがった!

(クリックで少し拡大)


回りを見回す。俺の他は誰も立っていない。

・・・勝ったか!

隣のジャッキーのトレイを見ると、もう殆ど空だった。

その時、俺とは反対側に座っていた青年が勢い良く立ちあがった!彼が2着だ!
彼に続いて、去年3位の男性が。そしてジャッキーが立ちあがる。

ジャッキー「くそ!負けた!後はユウキに託すよ!」

去年3位「あいたた!俺が2着だと思ったのに!
      しょうがない。ユウキ、俺の分も頑張ってくれ!」


2チーム目のみんなに祝福を受け、決勝ラウンドへと進む。
その間、なんと1分。
今食べたばかりの豆腐は、まだ胃に達していない。


決勝ラウンドは、男女混合戦だ。
各パートの上位2着で対戦し、チャンピオンを決める。

席に着くと、またも味無しの一丁豆腐が運ばれて来た。




司会者「チャンピオン、さすが冷静です。」

(クリックで少し拡大)

冷静に見えるのは見た目だけで、実はかなりキツイ。
さっきの豆腐が今にも出てきそうだ。


司会者「では、決勝を始めましょう。
     ルールは先ほどと同じです。手は使ってはいけません。
     食べ終わったら席を立って下さい。
     それでは、皆さん手を後に回して下さい
     よーい、スタート!」



決勝が始まった!

(クリックで少し拡大)



3口ぐらい食べたところで、またも胃の中が逆流して来た。
うぉぉぉぉぉ、吐きそうだ!駄目だ!

もの凄い顔でふんばり、胃に押し戻す。

更に5口ぐらい食べた所で、またも激流が襲う。
くぅぅぅぉぉぉ・・・うぉぉぉぉぉ

目に涙を浮かべてそれを飲み込んだ。

時間を掛けていては逆に危ない。
俺はそう思って、残りを全て口に掻き込んだ!


それと同時に、凄い勢いで席から立ちあがる。

(クリックで少し拡大)

目に浮かんだ涙を見られないよう$K!"N)$A$"$,$k$HF1;~$K8e$r8~$/!#

それを手ぬぐいで拭いて、改めて向き直ると・・・俺の他には誰も立っていない!


  ・・・勝った!


司会者「やりました!去年のチャンピオンがタイトルを守りました!」



2着、3着と決まり、決勝は終わった。
今年の3位は、何と日本人女性だった!

簡単な表彰式があり、賞品が授与される。
賞品は・・・また「釣り券」だ。

去年貰った「釣り券」も、結局一度も使わなかった。
今年こそは、車も手に入った事だし、使うかも?


 「優勝者のユウキさんに、今一度大きな拍手を!」





こうして、タイトル防衛に成功した。


とうふ2丁はかなり腹に来た。
もう今日は食べなくても大丈夫だ。もう食べない。







・・・って、おい。

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[朱一色の夕べ]
7月19日(土)10:43pm


大家さんから、餅がキムチ汁に漬かったような食べ物を貰った。
味見してみると、中々美味しい。

 決めた! 今日の1食はこれにしよう!

嬉々として、冷凍庫に保存してあるご飯を解凍し、
キムチ餅を鍋に掛けて加熱した。


スポーツニュースを見ながら、餅をおかずにしてご飯を食べる。

最初の3分ぐらいはそれで問題無かった。
だけど、5分を過ぎて、段々と気分が悪くなってきた・・・

少しづつ、箸の進みが遅くなり、
・・・10分を過ぎた頃、とうとう限界に達した!

トイレに掛けこんで、たった今食べた物を全部吐く。
吐いた後は強烈な胸焼けと腹痛に襲われ、布団の上に倒れ込んだ。


目が覚めると、午後7時になっていた。

胸焼けも腹痛も、完全に治っている。


・・・治ったら、どうも腹の虫が鳴いている。
食べた物を吐いてしまったのだから、ある意味当然だ。

 さて、今度は何を食べようか?

目に入ったのは、「豚キムチ炒飯の素」。

 またキムチか・・・、まぁいい。これにしようじゃないか。

ところが意外。 美味い! 食が進む!
良かった。キムチ恐怖症にはなっていないようだ。


考えてみれば、餅をおかずにしてご飯を食べる行為がおかしい。
サンドイッチにホットケーキを挟んで食べるようなもんだ。

この経験が、これからの人生に生かされる事を祈ろう。
身体を張ってまで学ぶ価値があったようには、全く思えないけれど。

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[XXX・・・○XX]
7月18日(金)10:43pm


X X X X X X X X X X
X X X X X X X X X X
X X X X X X X X X X
X X X X X X X X X X
X X X X X X X X X X
X X X X X X X X X X
X X X X X X X X X X
X X X X X X X X X X
X X X X X X X X X X
X X X X X X X X X X
X X X X X X X ○X X
X X X X X X X X X X
X X X X X X X X X X

最後に「バックステージ(俳優新聞)」を買ったのはいつだったろう?

見限って以来、買うのを止めていたわけだが
車が手に入る事もあって、再始動の意味も込めて買ってみた。


今週号には、130のキャスティング情報が載っていた。

その中で、俺が応募できそうなのは・・・


            1 つ


たった一つの有用なキャスティング情報を得る為に3$払うのなんて馬鹿らしい。

自分に合った役柄と、オーディション情報を探し出してくれる
「エージェント」を得る必要性を、改めて再認識させてくれた。


ありがとう。バックステージ。



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一言

松井サヨナラホームラン
野茂の2ランホームラン
どちらも見逃した!


[燃費の悪い巨体]
7月17日(木)06:27pm


最近結婚した友人の引越しを、今月始めに手伝ったのだが、
そのお礼に「TODAI」に連れて行ってくれるそうだ!


「TODAI」というのは有名な寿司チェーン店の名前で、
寿司だけではなく、様々な日本食が食べ放題なんだ。


ユウキ、お前は良く頑張った。

    今日はダイエットは休止だ!


眠っていた食欲に火が付いた。


最近はろくな物を食べてない。
最後に寿司を食べたのは何ヶ月前か分からん。

だが目の前に「 寿司 無料で 食べ放題 」があるのだ!




入り口が見えた。期待で胸が張り裂けそうだ。

待ってろ、寿司共。一人残らず食べてやるから。



席に着いて、早速 寿司を物色する。
寿司以外には目もくれない。

俺が求めているのは「寿司」ただ一つ。
肉よ、お前は二軍だ。下がっていろ。



  <第1皿>



軍艦巻き  7個
握り寿司 12個 (うなぎ7個)

計、    19個




〜〜5分後〜〜








      終了





  <第2皿>



軍艦巻き  3個
巻き寿司  2個
握り寿司 15個 (うなぎ 5個)

計、    20個






〜〜5分後〜〜








  <第3皿>



軍艦巻き  3個
握り寿司 11個 (うなぎ3個)

計、    14個







〜〜結果発表〜〜






 < 3皿の合計 >



軍艦巻き 13個
巻き寿司  2個
握り寿司 38個 (うなぎ15個)


合計   53個






こいつにダイエットを語る資格は 全く無い。


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[見る事、見られる事]
7月16日(水)11:06pm


舞台劇【デッドライン】のミーティングは午後7時からと聞いていた。
バスと電車を乗り継ぎ、シアター劇場に着いたのは6時40分だった。

エレベーターで4Fに上がって、
前回「リーディング」が行われたB劇場で待っていると、
「ダーン」が俺を呼びに来てくれた。

ダーン「ユウキ、今日はこっちじゃないんだ。」

ダーンは去年の舞台で「照明」と「音響」を担当してくれた人だ。
実は彼は役者で、今回は主役の一人としてこの劇に参加する。


ダーンに導かれて、廊下の奥のC劇場へ。

C劇場は、他の劇場と違ってオフィスのような空間になっていた。
待合室の壁には舞台劇のポスターが貼ってあり、
ソファがいくつか置いてある。

開いたドアの向こうに、監督のクリスとアジア人の青年が見えた。

クリス「やぁユウキ!」

クリスとそこにいたアジア人青年に挨拶をする。
彼には・・・どこかで出会った気がする。 どこだろうか?
ラストサムライ?レッドヘリング?


ユウキ「・・・どっかで、会ったよね?」

青年 「俺もそう思ってたんだ。見た顔だなぁ、と思ってさ。」

ユウキ「どこで会ったんだろう」

青年 「どこだろう?何か、戦争物の映画で会った気がするけど・・・」

戦争物・・・と言うと、どれだろう・・・



  ・・・・・・ああ、思い出した!


彼に出会ったのは、去年の7月、
「ラジオサイレンス」のコールバック(二次選考)だ!

彼は日本人と中国系アメリカ人のハーフで、
日本語は一応喋れるけど語彙力が無いため、
オーディションでは俺と一時間に渡ってセリフの練習をしたんだ。


なるほど。
肩を並べて練習してれば、そりゃ顔も覚えているはずだ。


再開を喜ぶ二人。
ハリウッドのアジア人俳優のコミュニティーは、
広いようで狭く、敷居が高い。
同じレベルにいる俳優と再会する事は珍しくない。



青年 「そうだそうだ! そうだった。」

ユウキ「君の名前はなんだっけ?」

青年 「俺はジェームス。君は・・・」

ユウキ「ユウキ。」

ジェームス「ユウキか。あの映画、どうだった?」

ユウキ「糞だね。糞。」

ジェームス「撮影が?」

ユウキ「撮影はまだ良かったけど、給料未払いだし、
     俺のセリフは勝手に変えるし。」

ジェームス「そうか。それは少し残念だったね。」

ユウキ「ああ。・・・ところで、今日は・・・?」


クリス(監督)が思い出したかのように言う。


クリス「ああ、そう! ユウキ、少し余興に付き合ってもらうよ」

ユウキ「?」


クリスは俺に台本を渡して言う。


クリス「ちょっと彼の台本読みに付き合ってくれるかな。
    ユウキ、タムのセリフを読んでくれ。
    ジェームス、君はロン大佐のセリフを読んで。」


俺が少し動揺したのを見て、クリスが慌ててフォローする。


クリス「いや、ユウキ。そういうんじゃ無いんだ。
    これはただの余興。心配しなくていい。
    君の役は、他の誰にも渡す気は無い。」


ホントかねー。クリスは続ける


クリス「最初にユウキがタム、ジェームスがロン大佐のセリフを読む。
    それから交代して、
    ユウキがロン大佐、ジェームスがタムのセリフを読むんだ。」


俺にタムの見本を見せろ・・・と?
まぁ、いい。言われた通り、やろうじゃないか。


クリスに言われたように台本読みを行う。
それが済むと、クリスがジェームスに言った。


クリス「ジェームス、どうもありがとう。今日か明日中にでも電話するよ。」


ジェームスが部屋を出ると、クリスがこっちに向き直り、
改まって俺に聞いた。


クリス「ユウキ、彼をタムとした場合、どう思う?
    彼はタムの役に合っているだろうか」


どうやら、俺はいつの間にかオーディションを催す側に回っていたようだ。

正直に、思った事を話す。


ユウキ「タムにしては少し身長が高いんじゃないかな。
     他の役の人と比べないと、何とも言えないけど。

クリス「俺もそう感じていたんだ。他には?」

ユウキ「年齢よりも若く見えるよね。27歳だっけ?そうは見えない。
     笑顔はとても無邪気で、タムの役に合っていると思う。」

クリス「確かに、そう思う。」


ユウキ「・・・どうかした?」

クリス「・・・いや、どうしてもロドニーのイメージが頭から離れないんだ!
    彼はあまりに完璧に役にはまっていた。
    そのイメージが強烈すぎて、どうしても消す事ができない。」


ロドニーは、去年の公演で「タム」を演じた青年だ。

彼の無邪気な外見とベトナム訛りの演技は完璧で、
クリスは彼に是非とも再演して貰いたいと思っていた。

だけどロドニーは断った。
彼はいい奴だ。それは断言できる。
でも、ロドニーはこの無給劇が好きではなく、
 「たとえ再演されても絶対に出ない」
と断言していた。(クリスのいないところで)





そうしているうちに時計は7時を回り、ミーティングが始まった。

ミーティングでは、どういうわけか監督のクリスよりも
「ダーン」が主導権を持っているように見えた。

彼が「時間厳守について」や、「これからの計画について」など、
主要な事をどんどん話し、クリスは聞き手に回っている。

ダーンは、ただの役者の一人ではないのか?

不思議に思っていると、
彼が今回の舞台の「プロデューサー」である事が告げられた。


・・・金を出すから主役。
・・・監督だから主役。
・・・・・・クリス、本当にこの劇、大丈夫なの?


リハーサル予定日と、それぞれの都合を確認して、ミーティングは終了。


ミーティングの後、大半の人は帰路に着いたが、
俺はクリスに頼まれて、「ウィー」という
ベトナム系アメリカ人の青年のオーディションを手伝う事になった。

ウィーは親がベトナム人らしく、ベトナム語を喋る。
クリスはそれがいたく気に入ったようだ。

ただ、一つ問題があるのは、
  「彼は、全くの演技初心者である」
という事か。


・・・・・・クリス、本当にこの劇、大丈夫なの?




シアター劇場を出て、外の空気を吸う。
空はすっかり真っ暗になっていて、
ハリウッド通りのネオンサインが幻想的に輝いていた。

時計はもう午後9時を回っている。

さて、帰るか。

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一言

今日はメジャーリーグの
オールスターだった。
面白い試合だったので、
筋トレにも気合が入った。


[餓えた草食動物]
7月15日(火)10:17pm


今日は朝にそうめんを二束食べたのだが、
昼を過ぎて、どうしても空腹感が押さえられなくなった

いつもは、特製オレンジジュースを飲んで糖分を補給し、
空腹感を紛らわせているんだけど、今日はそれでも駄目だ。

仕方が無いのでキャベツを1/4玉ほど千切りにして食べたところ・・・何とか落ち付いた。


一日一食の食生活と、毎日の運動で 体重は順調に減り続け、
189ポンド(85.5kg)まで落ちた。  (身長:185cm)
190ポンドの壁を破れたのは嬉しい。

身長から算出される理想体重(適正体重)まで痩せる気は無いけど、
自分が一番ベストな状態になる体重には持っていきたい。

レジュメ(履歴書)に書いてある182ポンドまでもうすぐだ。
身体に気を付けながら頑張ろうと思う。


舞台劇【デッドライン】の監督のクリスから電話があった。
明日の午後7時から、
これからの予定についてのミーティングをするらしい。

場所はシアター劇場。

俺は・・・車はあるけど免許が無いので、バス+電車で行く事になるだろう。
帰りは何時になるのだろうか?

遅くなると、電車+バスで帰るのはかなり面倒になる。
これだから試験に受かっておくべきだったんだ。

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[700$のハイテク車]
7月14日(月)03:57pm


水曜日に手に入る車の代金を、今日 支払わなければならない。
銀行へ歩いて行って、700$降ろして来た。



この700$が、車に変わるのだ・・・
ああ、失いたくない。可愛いお金ちゃん達


永久の別れの前に、床に並べてみた。(画像読込中かも)


20$札を35枚並べると、結構な面積になった。

この時、俺の頭に稲妻のように「あるアイディア」が浮かんだ・・・!!



     700$もあれば、自分で車が作れるのではないか!?




思いついたら、即実行に移さねばならない。

俺は早速作業に取り掛かり、
                 ・・・そして、なんと車は完成した!!



   それでは、ご覧頂こう。これが700$で作られた車だ!














走る気配は無い。




どうやら、700$で車を作るのは少し無謀だったようだ。

仕方がないので、大人しく代金として支払った。




こうして、いよいよこの車は俺の物となる事が決定したわけだ。


さてこの車、外観は いたって普通の車である。



しかし、「700$」という、自動車にしてみれば破格の値段にも関わらず、
21世紀の最新テクノロジーを駆使したデザインや機能が随所に施されている。


これから、それらの最新テクノロジーをいくつかをご紹介しよう。




贅沢に砕けたライト

まるで中世欧州のシャンデリアを彷彿させるデザインだ。





ゴージャスに破れたシートカバー

アンティーク感溢れるデザインには、こだわりを感じる。





防犯と、シンプルさを追求したカーラジオ

付いて無ければ盗まれる事も無い。コロンブスの卵も真っ青な発想の転換だ。





気持ち的な「豊さ」を演出する、開かない天窓

開きはしないが、そこにあるだけで気持ちが安らぐ。「癒し」がここにある。





暴漢の侵入を防ぐ、外から開かない運転席のドア

犯罪都市ロサンゼルスならではの防犯機能と言えよう。




いかがだろうか。

数々の最新機能を搭載したこの車こそ、
「21世紀カー」に相応しいとは言えないだろうかっ!

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一言

どこかの誰かが言った。
「継続は力なり」


[夏の暑い日]
7月13日(日)11:18pm


今日こそは「完全休養日」だぞ。絶対に運動しないぞ。

と決めても、気が付くと木刀で素振りをしている。
これが、ダイエットの強迫観念から来るのか、
ただ身体が運動を欲しているのかどうかは、まだ分からない。

これがその木刀。

実は、折れたシャベル(スコップ)の柄だ。


飯(ハッシュドポテト)を食べて水シャワーを浴びたら眠くなり、昼寝。
この糞暑い中、クーラーも扇風機も無い部屋で
長時間眠れるはずもなく、三時間で起きる。
最近は毎日の筋トレで身体を酷使してきたので、
こういうダラダラ過ごす一日は久しぶりに感じてしまうのだった。

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[家族劇の中の異物]
7月12日(土)06:36pm


舞台劇【デッドライン】のリーディング(読み通し)は午後1時からだ。

俺は気合を入れて、去年の公演で着た戦闘服を着こんで出掛けた。

「本来ならば」ここで颯爽と自分の車に乗り込む所だが、
俺は免許試験に落ちたので、またもバスと電車の旅だ。

バスに20分ほど揺られ、電車に乗り換えて更に30分。
ハリウッド/バイン駅に到着した。

電車を下りて、駅の外に出ると、
なんとも巨大な劇場がそびえ立っているではないか!

その巨大な劇場の巨大な壁には、
テレビCMで良く見掛けた舞台劇「プロデューサー」の
巨大なポスターが貼ってある。




     これが俺の演ずる劇場か・・・・・!!







そんなワケがない。


監督のクリスから貰った住所が指し示しているのは、
この巨大劇場から西に2ブロック行った所。


トコトコ歩いて行くと、そこには古いビルが建っていた。

シアター劇場は、そのビルの4F。
エレベーターに乗って4Fへと上がる。


エレベーターを降りると、・・・そこが独特の雰囲気を放つ「シアター劇場」だ。

シアター劇場は正面に受付があり、廊下が右奥へと続いている。

その廊下を進むと、左手に、A劇場、B劇場、C劇場と小劇場が並び、
右側の壁には誰が書いたのか分からない絵画作品がずらっと描かれていた。

このアートの大群と、照明に貼られたカラーフィルムが
「独特の雰囲気」を醸し出しているんだろう。



シアター劇場内を一通り見回ったが、誰もいないようだ。
少し早く来すぎたかな?

受付の横にある椅子に座っていると、
エレベーターから誰かが降りて来た。 ・・・クリス(監督)だ!


クリス「おお!ユウキ!久しぶり!」

ユウキ「クリス、久しぶり!」


クリスと挨拶を済ませた後、B劇場に案内された。


クリス「ここが俺達が舞台を実際に演ずる、B劇場だ!」


B劇場は、想像していたのよりもずっと大きかった。
去年公演した宝石箱劇場の1.5倍はあるだろうか?

 ところで、クリスは「俺達が舞台を演ずる」と言った。
 俺はこの時、まだこの言葉の「真の意味」を理解してはいなかった・・・。



B劇場の椅子に座って、クリスに「一時的に」渡された新しい台本に目を通す。
クリス曰く、

クリス「台本は、新しく参加する人の分しか用意してないんだ。
    幸いユウキのセリフとシーンは殆ど変わって無いので、
    前回の台本を引き続き使用して欲しい。
    もしも新しい台本が欲しければ、5$払ってくれれば渡すよ。
    印刷代にそれぐらい掛かってしまうのでね。」

・・・クリスはこういうセコい所がある。
でも、新しい台本をパッと見てみたら、
本当に俺のシーンは変わって無かったので、古いのを使う事にした。


新しい台本に目を通している間に、新しいキャストがどんどん集まって来る。

でも、俺の知らない顔ばかりだ。
・・・結局、前回の公演から何人残ったんだろうか?


そう思っていると、やっと見慣れた顔が現れた。ショーンだ!

ユウキ「ショーン、久しぶり!」

ショーン「ユウキ!久しぶり。またよろしくな」


だけどそれっきり。知ってる人は現れなかった。
14人集まった所で、クリスが言った。

クリス「よし。全員集まったな。」

ユウキ「14人しかいないよ?15人でしょ」

クリス「俺がいるから」

ユウキ「いや、クリス抜きで。キャストは15人でしょ?」

クリス「いや、俺も出るから」


・・・・え〜〜〜〜〜〜〜〜〜

何と、クリスがメインのキャラの一人として出るらしい。
だけど・・・俺は正直言ってクリスの演技力に疑問がある。

前回の公演の時だって、クリスは自分で
 「俺は演ずる方はさっぱり駄目なんだ」
って言ってたじゃないか。

本当に大丈夫なのだろうか・・・



しかし、これでハッキリした事がある。


前回の舞台に出演したキャストの中から
悪条件の元でやる今回の舞台に、金と膨大な時間を費やし、
少し曲がったボランティア精神でもって参加しようというバカは、

   ほぼ 俺だけ だった。


何故、「ほぼ」なのか。
そして、さっき出てきた「ショーン」はどうなのか。


・・・実は「ショーン」は、

   クリスの実の息子です。



父親の劇に息子が出る。それはまぁいい。
でも、
父親の劇に、父親と息子が出る。これは果たしてどうなのか。


クリスが真剣に実力重視でキャスティングしたのか、少し疑ってしまう。
自分が出たかったから今回の劇を企画したのではないか?とも思ってしまう。
そう考えれば「木曜日公演」という不自然な公演日程も納得が・・・


      ・・・いや、止めよう。



クリスに対する不信感が増えたのは事実だが、賽は投げられている。
俺は出演する、と言った。だから出演するんだ。


キャストが全員揃った所で、これからの予定について説明があった。

本番は、「8月の毎週木曜日」だとクリスに聞かされていたのだけど、
いつの間にか「9月の毎週木曜日」になっていた。
8月中にリハーサルをする予定なんだと。




さて、観客もぼちぼち現れて来て、いよいよ「リーディング」の始まりです!

多少セリフが変わっているけど、大体の流れは同じだ。
ただ、俺とクリスとショーン以外は初めて台本を読むので、
セリフに少し「とまどい」が見える。

前回と同じ役を演じている俺達2人は慣れたもんだ。
頭の中に 既にセリフがあるので、簡単に口から出る。

第一部と第二部の間に10分間の休憩を挟み、約2時間で最後まで通す。
クリスがエンディング部分の構成を大幅に変えたので、
終わった後の余韻は中々の物だった。

終幕と同時に観客とキャストのみんなから拍手が起こり、
リーディングは無事に終了したのだった。

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[運転免許、取得せよ]
7月11日(金)05:14pm


試験場に着いたのは、9時だった。

8時から準備運動がてらに一時間ほど運転した後で、俺は落ち付いていた。
前回の緊張が嘘のようだ。

まぁ、この平静さの裏には、「今回は鬼教官ローラに当たらない」
という確信があるからなんだけどね。


受付を済ませて待っていると、
体格の良い若い男性が試験場から出てきた。

黒いサングラスを掛けたその男が、どうやら今回の試験官のようだ。



若い男「やぁ、おはよう。僕はヘクター。君は・・・ユウキかい?」

ユウキ「そうだよ。おはようヘクター。」



見よ! この清々しい会話!
このコミュニケーションこそが大切なのだ!ローラに見せてやりたいよ。


そうそう。今度こそはしっかりと「アレ」を言っておかなければ・・・。


ユウキ「僕は日本語で筆記試験を受けて、そして合格したんだ。
     だから、英語で専門用語を早く喋られると良く分からないんだ。
     実技試験では、ゆっくり喋ってくれると助かるんだけど」


ヘクター「ああ、いいよ。僕はあいにく日本語は喋れないけど、
      できるだけゆっくり、分かり易く喋るように努力するよ。」


見たかローラ!!! お前、見てるか!?
彼こそが試験官の鑑(かがみ)だ!そうだろう!



装備チェックを済ませ、手信号を確認した後、
ヘクターは助手席に乗り込んだ。


ヘクター「まず、試験を始める前に一つ確認しておきたいんだけど、
      僕が指示を出しても、回りの安全が完全に確保されるまでは
      その指示に従う必要は無いよ。
      とにかく、安全を第一に考えて運転するんだ。
      それでは、エンジンをスタートさせて、行きましょう。」


試験場を出て、一般道に出る。

試験では、試験官はミスを数えていく。
そのミスが15個未満ならば「合格」、 15個以上で「不合格」、
「深刻なミス」に一つでもチェックが付くと、即不合格となる。


さて、どうだろう。


最初の左への車線変更で、いきなりつまずく。

前の車との車間距離が足りない状態で車線変更を行い、−2ポイント。



その他は順調に進み、今回は無事に試験を終えた!


試験場の駐車場に戻って来てから、ヘクターは言った。
ここで、合否が告げられる。





ヘクター「なかなか良い運転だったね。
      ・・・でも不合格なんだ。すまないね。」



なんだってーーーーーーーーーーーーーー!!
自分では殆どミスってないつもりだったのに、
何が問題だったんだろうか・・・


ヘクターは続ける。

ヘクター「君の運転は殆ど問題無かった。
      ただ赤信号での右折を除いてね。」


カリフォルニアでは赤信号でも右折する事ができる。


ヘクター「赤信号で右折を行う時、君は一旦停止を怠ったんだ。
      一度目は減点だけで済ませれたんだけど、
      二度やってしまったので『深刻なミス』と記録しなくちゃいけない。
      すまないね。」



・・・なるほど。そう言われてみればそうだ。
俺は赤信号で右折する時、減速はしたけど一旦停止をしていない。
というか、一旦停止をしなくちゃいけないと知らなかった。



ヘクターにお礼を言って、試験場を後にする。
貰った成績票を見てみると、減点は6ポイントだけだった。




こうして、二度目の試験に落ちた。

でも、不思議と前回ほど悔しくない。
自分のどこが悪かったのか分かっているからだろう。


次回の試験は、25日だ。
14日に車は手に入るけど、まだ乗る事ができない。

この2週間、また悶々とした日々が続くのだろうか・・・

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一言

スポーツ専門チャンネルのESPNで、
何と大相撲・初場所をやっていた。
それだけでも驚きだけど、
アナウンサーが
英語で真面目に実況していたのには、
二度驚かされた。


[1日1食1$]
7月10日(木)11:45am


3ヶ月ぐらい前から、NY時代の1日1食1$に戻している。
でも、1日1食1$って、例えばどんなのを食べているの?


例えば、今日は何だろう。



   <材料>


納豆2パック
 
4パックで1$ 2パックで50¢



しそのり(海苔の佃煮)少量

190gで2$  20gで20¢



青しその実 少量

190gで1$  20gで10¢






材料代は80¢。とても経済的ですね。







   <調理方法>



 納豆を椀に入れて



 かき混ぜます。



 全部入れて



 かき混ぜます。








  できあがり。





  ・・・・・って、かき混ぜてるだけじゃねえか!




勿論、これだけでは栄養バランスが目茶目茶なので、



これも必要なんだけど。
 

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一言

ボリュームのある日記を書いた直後は、
少し更新し辛くなる。
濃い内容の日記を書こうと、
無理に気張ってしまうからだ。


[進行方向、良し]
7月9日(水)08:50pm


運転免許試験は2日後。

これに受からなければ 何も始まらない。


本当は、先月の26日に受けるはずだった。
でも、俺が乗る予定だった車の「所有者登録証」が試験日までに届かなかった為、
受験する事ができなかった。


でも、今回は大丈夫だ。
今日確認したら、「所有者登録証」も無事に届いたらしい。

あとは受かるだけ。これが一番重要なんだけどね。


14日には、車も手に入る。
古い車だけど、ちゃんと走るし700$なので文句は言うまい。


あとは受かるだけ!そして俺は前に進む!


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[糞みてえな裏切り]
7月8日(火)04:49pm


ラジオ・サイレンス】という映画を去年の8月に撮影した。
なんと、その完成品のビデオが送られて来たんだ!

この映画の中で俺は日本兵を演じ、セリフは全て日本語だった。

だから、監督のエリックに

「日本語のセリフの編集にタダで立ち会ってあげるから、
 必要な時はいつでも電話して下さい」

と何遍も念を押した。
自分以外に日本人が居なかったから、そうするのが一番良いと思ったんだ。

エリックも、

「ありがとう。是非そうさせて貰うよ。」

と言っていた。



だけど、エリックはとうとう一度も俺を呼ばなかった。


それがどうしてなのか、俺は考えてもみなかったけど、
この映画を見る事によって、その謎は一気に解ける事となる。


この映画を撮影した時、エリックはある事を言っていた。

エリック「この映画の中で、僕は日本兵を悪役にしたくは無いんだ。
     『塚本修治』が米兵に敬意を表し、
     無抵抗である事を字幕で強調した上で、
     それを仲間が死んだ事で逆上した米兵が殺す。
     その理不尽さこそ、僕が求めている物なんだ。」

このアイディアに俺は賛同して、英文のセリフを日本語に訳し、
それを映画内で言った「ハズ」だった。

そして、この映画は良くある米国のWW2を題材にした勧善懲悪系の戦争映画とはちょっと違う映画になっている「ハズ」だった。


それだけに、俺のこの映画に掛ける期待は結構高い。



送られて来たビデオをビデオデッキに入れて、再生する。


       さぁ、どんな驚きを見せてくれるのか!




             ・・・・・・。

             ・・・・・・。




20分間の映画が終わった後、俺はしばらく言葉を失った。



             ・・・なんだ これは






台本にあった英文の直訳

 「私は抵抗はしない。私は囚人だ。
  私の国で、私はもう死んでいる。」


俺が日本語に訳して、実際に映画内で言ったセリフ

 「私は、囚人となってまで、抵抗は一切しない!
  本国において、私は死んだも同然だ!」








   ・・・そして、映画内で実際に出てきた「英語字幕」の登場です!!







        「お前達は、一人残らず死ぬ。
         もうすぐ、この船は沈む。
         俺が海の底まで案内してやろう!」





                 ・・・・。

                 ・・・・・・・・・。



・・・な、・・・なんで俺が北斗の拳みたいなセリフ言ってんだ?

このセリフのどこが、「米兵に敬意を表した日本兵」であり、
「無抵抗の日本兵」であり、「それを殺す理不尽さ」を表現してんだよ!

モロに米兵に「死ね」て言ってるよな。


そりゃここまでセリフを変えてれば、俺を編集に呼べないハズだ。
この映画の中で、俺はただの悪役の残党であり、
囚われて、なお憎悪に燃える悪の戦士なワケだ。



さて、「本来あるべきシーン」と、比較して貰おうじゃないか。



=======<本来あるべきシーン>=======



バックラー(左側)をなだめる、ケリー(右側)






そこに、デッカー船長の死を告げる知らせが・・・






逆上するバックラー。彼は銃を取り出す。






それを見た塚本修治は言う。

  「私は、捕虜となってまで抵抗は一切しない!
   本国において、私は死んだも同然だ!」




塚本修治が日本語で喋ったのを聞いたバックラーは、
いよいよ頭に血が上り





ズドン!





目を開けたまま絶命する塚本修治。
故郷の家族に想いをはせる

  「かあさん・・・」








=======<映画内で登場したシーン>========



バックラー(左側)をなだめる、ケリー(右側)






そこに、デッカー船長の死を告げる知らせが・・・






逆上するバックラー。彼は銃を取り出す。






塚本修二は自分の死など、少しも怖くは無い。

    「お前達は、一人残らず死ぬ。
     もうすぐ、この船は沈む。
     俺が海の底まで案内してやろう!」




塚本修治が日本語で喋ったのを聞いたバックラーは、
いよいよ頭に血が上り





ズドン!





目を開けたまま絶命する塚本修治。
たとえ身体は滅びようとも、我の恨みからは逃れられないぞ!
お前達は一人の残らず死ぬのだ!!!
ハーッハッハッハッハッハッハ!!


=====================




こんな船、さっさと沈んでしまえ。

  (クリックで拡大)

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[断髪]
7月6日(日)08:48pm


舞台劇の公演まで一ヶ月ある。
ロン大佐は短髪のキャラなので、自分で短く散髪する事にした。

カリフォルニアの夏日の下、上半身裸でプールサイドに立つ。
・・・暑い。
強烈な日差しのせいで、目もまともに開けられない

大家さんのジャッキーが電鋸で剪定(せんてい)する傍らで
伸びたい放題に伸びた髪の毛をバリカンで剪定する俺。

白いバケツには、見る間に天然パーマの黒髪が積もっていった。


全部刈り終わった頃、太陽はすっかり真上に来ていた。
シャワーを浴びて、すっきりした自分の頭を見ると
今年の暑い夏も乗り越えれそうな気がして来るのだった。

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[死線再来]
7月5日(土)06:16pm


今から一年ほど前に、俺は一つの舞台劇で、ロン大佐という役を演じた。
その舞台劇の名前は「デッドライン」


その「デッドライン」が帰って来る!!


しかし、何を思ったのか、監督のクリスは悪条件の中でこの舞台劇をやりたいようだ。

 公演期間は8月に4回  全部  「木 曜 日」
 場所はハリウッドのシアター劇場の4F
 チケット代は15$

一体誰が「木曜日」に15$も出してベトナム戦争物の
舞台劇を見に行きたがるだろうか?
ましてや去年の公演での金曜日の悲惨さを知ってるクリスだ。
どういう思惑があって木曜日を選んだのか理解できない。


理解できないのは、ある意味当然で、
クリスが木曜日を選んだのは「木曜日が開いていたから」であった。

クリスは、4回の公演で劇場使用料600$を支払う。
劇場には観客席が50あり、
チケット代は15$の予定なので満席になれば750$の収入。

それが4回なので、4回全て満席にすれば、3000$の収入。
そこから劇場使用料の600$を引いて、2400$
その2400$を15人のキャストで割ると、一人あたり160$

つまり、4回の公演を全て満席にすれば、俳優は160$の収入がある、という事だ。

だけど、木曜日公演の舞台劇を4日間全て満席にする事など、
よほどの有名俳優を使わない限り有り得ないだろう。

もしかしたら俳優の収入は無いかもしれない。
あっても、4回の公演で10〜160$かもしれない。
練習と本番を含めた一ヶ月、他の仕事ができないかもしれない。
            ――――――つまり俳優はリスクを負うわけだ。


クリスは前回の反省を生かし、キャストを大幅に変更している。
前回から引き続き演ずるのは、俺を含めて4〜5人しかいない。
しかし、そのようなリスクを負ってまで演じてくれる人も中々いるはずもなく、
その4〜5人の中に選ばれた俺の友人は辞退してしまった。

残っているのは俺を含めて2〜3人だろう。

俺は馬鹿だからリスクを選んだ。
何もせずに座ってるよりかはマシだと思った。

来週の土曜日には新しい台本のリーディング(読み聞かせ)が行われる。
どんな風にセリフが変更されているか、少し楽しみにも思ってしまうのだった。


↓前回のデッドラインの公演のポストカード


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一言

何事も無かったかのように更新すると
どうなるのであろうか!


[運転免許]
7月4日(金)10:47pm


米国に渡ってから、もうすぐ3年経とうとしているけど
俺はこの3年間、「運転免許」を持たずに生活して来た。
だけど、もう限界だ。免許が無ければやってらない。

そこでいよいよ免許を取得するべく、試験勉強に励み、
筆記試験を受けて・・・見事合格した!

・・・そこまでは、順調だった。


数回の練習の後、俺はいよいよ実地試験を受ける事になった。
場所はロングビーチの運転試験場。
運転試験場と言っても、日本のように試験用のコースがあるわけではなく、
いきなり公道を走る事になる。俺は緊張していた。

朝の10時半に予約していたので、俺は7時に起き、
朝食を済ませた後、一時間半掛けてロングビーチへ向かった。


到着したのは9時半だった。試験まで1時間あるので、
ウォーミングアップも兼ねて、試験場の近くで少し練習。

万全の体制を整えて試験場へ向かった!

試験場には既に数台の車が並んでいて、俺は最後尾に付けた。

数分もしないうちに俺の番がまわって来る。
「自動車保険証」「運転許可証」「自動車登録証明」の3つを提出して、先に進む。

前の方ではもう試験が始まっているらしく、試験官らしき人がテールランプや、
ワイパーなどをチェックしていた。


もうすぐ自分の番が回って来る。緊張が走る。


やがて試験場から中年の白人女性の試験官が出てきて、
俺の前に停まっている黒のホンダ車へと歩いて行った。、
しかし、どういうワケか、黒のホンダ車のドライバーと少し話した後、
俺の方へと向かって来た。ちなみに俺が運転しているのはトヨタのワゴン車だ。


その女性試験官は、俺のすぐ横まで来ると業務的な口調で
「ここにサインして」
と言った。俺がサインを済ませると、
「それじゃ試験を始めます。」


そして、試験が始まった。
まずは車の装備チェックだ。
ワイパーや、ランプ、ライトのチェック、クラクションや、ハザードランプなど、
一通りのチェックをして、手信号を試験官の指示に合わせて行う。

順調だ。

それが済むと、女性試験官は助手席に乗り込んで来た。

「ユウキです。よろしくお願いします。」

と俺は名乗って、握手を求めた。
するとどうだろう。その試験官は露骨に嫌な顔をした後で、

「・・・ローラよ。」

と名乗り、これまたとても嫌そうな顔で握手し返して来た。
その握手も、全くこっちの手を握ってなく、嫌々ながらやってるとしか思えない。

・・・嫌な予感がした。そしてその予感は当たっていた。
それからは筆舌に尽くしがたい地獄が待っていた。


まず、その女性試験官は喋るのがとにかく早い。
日本語で筆記試験を受けた俺は、専門用語をベラベラと早口で喋られても意味が分からない。

だけど、大丈夫。友達に予め聞いてたんだ。
こう言えば、試験官はゆっくり喋ってくれるってね。

俺 「僕は日本人で、試験も日本語で受けたので、もう少しゆっくり喋ってくれませんか?」

こう言えば、試験官は分かるようにゆっくり喋ってくれると、聞いていた。
だが、鬼教官ローラの口から出た言葉は

ローラ「それは無理ね。私の指示通り、一寸違わず動きなさい。」

・・・何てこった。ゆっくり喋るつもりは全く無いらしい。

ローラ「分かったら早くエンジンをスタートさせなさい。」

はい。

ローラ「誰がアクセルを踏んでいいと言いましたか?
     私はエンジンをスタートさせなさい。と言ったのです。
     アクセルを踏んで良いとは一言も言ってない。
     私の言う事を実行しなさい、と言ったでしょう。」

はい。

ローラ「では、パーキングブレーキを解除し、
     アクセルを踏んで前にいる車の右側を通って向こう側へ行きなさい。」

はい。

ローラ「誰が減速して良いと言いましたか?
     私は右側を通って向こう側へ行けと言ったのです。
     減速して良いとは一言も言ってない。
     私の言う事を実行しなさい、と言ったでしょう。」

はい。

ローラ「では、向こう側へ行って左折し、公道へ出なさい。」

はい。

ローラ「そこを右に曲がりなさい。」

はい。

ローラ「そこの右側に○×△□・・・」

はい?今、何て言いました?もう一度ゆっくり言って下さい。

ローラ「何をやってるんですか!
     そこの右側の路肩に付けろと言ったでしょう!
     右側に付けろと私が言ったら、すぐに付けなさい!」

・・・はい。

ローラ「そこを右折しなさい。」

はい。

ローラ「落ち付いて、もっとゆっくりと走りなさい。」

はい。

ローラ「そこの交差点を左折しなさい。」

はい。

ローラ「落ち付いて、もっとゆっくりと走りなさい。」

はい。

ローラ「何をやってるんですか!速度が遅すぎます!
     ここで試験は中止です。試験場へ向かいなさい!」

えええ!?今ゆっくりと走れって・・・



ここで、ローラは採点表の「深刻なミス」の「スピード」の欄に印を付けると、試験を打ち切った。
「深刻なミス」に一つでも印が付くと、そこで即失格になってしまう。

俺の採点用紙には、ご丁寧にもローラ直筆のメッセージが書かれていた。


   ローラ  「スピードが遅すぎる。話にならない。」


「ゆっくりと走れ」と言われた直後に「遅すぎる」という理由で落とされるとは、何とも理不尽だ。



後で知った事なのだが、試験の前にローラが何かを話していた黒のホンダ車は
ローラが以前に試験官を担当して落とした人が乗っていたらしい。
試験官は同じ受験者を2度担当する事ができない為、俺に回って来たようだ。


俺は10日に次の試験が控えている。
またローラに当たる可能性は絶対に無い。
今度の試験官は、少なくともローラより友好的な人がいいなぁ、と思わずにはいられないのだった。

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