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2008年12月08日 テレビ
波打ち際の攻防
今日は「新作テレビシリーズ」の衣装合わせに行ってきた。
俺が今回演ずるのは、「日本人研究者」の役だ。
セリフは2行の小さい役だけど、
そのシーンの設定は日本で、セリフも日本語だ。
・・・これは責任重大だぞ。
キャストされてからの2日間、
俺は昼夜を問わず「研究者」について調べ、
今日に備えてきた。
「研究者」とは、何か。
どのような種類の「研究者」がいるのか。
演ずるにあたって、俺は何を学ぶべきか。
そして、自分の役に、どのような人生を与えるか。
全神経を集中させ、可能な限り本気で勉強した。
・・・これも全て、今日の「衣装合わせ」に間に合わせるためだ。
撮影当日に何かを「修正」しようとしても、
撮影スケジュールが詰まっているので、限界がある。
もしも、何かを「修正」したかったら、
今日の「衣装合わせ」でやらないと、間に合わない。
衣装「あなたが日本人研究者ね。」
俺 「ええ。よろしくお願いします。」
衣装「じゃ、さっそくこの『白衣』に着替えてもらえるかしら。」
俺 「えっと・・・、これですか・・・?
・・・僕はこの『灰色の白衣』を着るんですか?」
衣装「ええ、そうよ。」
俺 「・・・『灰色の白衣』を着た日本人研究者を
見た事が無いのですが・・・。」
衣装「あら、そうなの。」
俺 「あの、日本の研究者は、
医療系や薬学系は『白い白衣』を着る事もあるんですが、
設計や開発を担当する、製造業の研究者は、
『作業服』という、企業ごとの制服を着てるんです。」
衣装「そうだったの。」
俺 「一応、ここに資料を用意してあるんですが。」
衣装「あらそうなの。わざわざ、おつかれさま。
でも、もう『灰色の白衣』で決定してるから。」
じゃ、着替えて。」
うわあああーーー、
いてええええええ!!!
衣装さんは、俺の話を聞いてくれないし、興味も無いようだ。
俺の2日間の努力は、見るも虚しく砕け散った。
まだこの前の「子供向けテレビシリーズ」の衣装さんの方が、
「本来の姿」にしようと努力してくれてたように思う。
でもこの人には、その意欲すら感じられない。
・・・何を言っても、無駄だ。
俺は心底ガッカリして、『灰色の白衣』に着替えた。
幼稚園児が着る「スモック」のような
「灰色の白衣」を着た俺は、相当マヌケだ。
一気に憂鬱になった。
・・・あ、そういえば、「企業ロゴ」はどうなったんだろう。
この調子だと・・・、
俺 「・・・あの、企業ロゴはどうなってるんでしょうか。
ちゃんと日本語になっているのでしょうか。」
衣装「さあ、どうかしら。
どちらにしても、もう最終決定してるから、
修正はできないわよ。」
俺 「・・・一応、見るだけでも、できると嬉しいのですが。」
衣装「美術さんのところで、聞いてみたらどうかしら。」
俺は急いで美術さんの所へ向かった。
・・・もしかしたら、まだ間に合うかもしれない!
美術「えーと、これがリストよ。
日本支社だから、
英語のロゴに、『日本』の文字が入ってるわけね。」
・・・うわ。
俺 「・・・で、何番が選ばれたんでしょうか。」
美術「えっとね、たしか(1)だった気がするわ。」
俺 「・・・そうですか。
あの・・・、このロゴは、もう修正不可能なのでしょうか。
少しだけ修正する事は可能でしょうか。」
美術「わあ、凄いわね!!
あなたが作ったの!?リアルね!」
俺 「・・・さっきのリストだと、
『日本』の字体が、『毛筆』になっているのですが、
この名札のように、『ゴシック体』に変更したりする事は、
果たして可能でしょうか。」
美術「うーん・・・、ちょっと無理ね。
もう作っちゃってるから。
ごめんなさいね。」
俺 「・・・いえ、いいんです。
お邪魔して、すみませんでした。」
・・・ああ、駄目だった。
今まで、これほど無力感を感じた事はない。
あさって、俺は、
「灰色の白衣」を着て、
「妙なロゴ」を付けて、
「リアルな演技」をしなきゃイカン。
・・・こんな感じか。
・・・こうして見てみると・・・、絶望するほど悪くはないか・・・。
椅子に腰掛けていれば・・・、「作業服」に見えなくもない・・・。
・・・外資系の研究機関だから・・・、他と少し違うだけさ・・・。
もう嘆いても仕方が無い。
俺は「衣装担当」でも、「美術担当」でもない。
ただ雇われただけの「演技担当」だ。
自分の演技に集中しよう。