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2008年05月19日  テレビ

寿司タクシー

子供向けテレビシリーズのリハーサルは
スタジオ内の実際のセットを使って行われた。

俺は、気合を入れて、スーツに白手袋という、
オーディションと同じ格好で参加した。

よっしゃ!やるか!


セットに入ると、そこでスタッフから「初めて」台本を手渡された。

・・・そう。俺はまだ、一度も台本を読んでないんだ。

予想はしていたけど、
まさか本当に、リハーサル当日に手渡されるとは・・・


待合室のソファに腰掛け、俺は冷や汗をかきながら台本に目を通した。

・・・俺のセリフは・・・2行。
 登場シーンは、約3~4分間というところか。

台本を読み終えて、俺はようやく胸をなでおろした。

・・・どうやら、俺がセリフを喋るのは
今日じゃなくて、「来週のリハーサル」みたいだ。

今日やるのは、セリフの無いシーンだ。

これなら、準備する事ができる。
・・・何とかなるかもしれない。


++++


さて、台本の初めの部分にキャストの一覧があるわけだけど、
どうも気になる事が2つある。


一つ目は、キャストそのものだ。

今回のストーリーは日本が舞台になっている。

だったら当然、日本人が数多く出演する・・・と思うかもしれないが、
現時点でキャストされている「日本人役」の7人のうち、
実際に日本語が喋れるのは・・・、俺だけのようだ。

俺のセリフは全て英語なので、日本語は出る幕が無い。


もう一つは、キャスト一覧の「タクシー運転手」の項目だ。

明らかに、「俺ではない役者の名前」が書かれている。

 ・・・これはどういう事だろうか?

元々は他の役者が「タクシー運転手」を演ずるはずだったが、
「何らかの理由」があって、俺に交代になったという事なのか。

って事は、オーディションの段階では、
俺は「第二候補」だったという事じゃないか。・・・うむむ。


でも、どうしてキャストが俺に変更されたのだろうか。

元キャストの「スケジュールの都合」だろうか?
それともプロダクション側が「心変わり」をしたのだろうか?


・・・今の俺にそれを確かめる術は無い。


++++


俺は気を取り直し、
タクシー運転手の「衣装合わせ」のため、衣裳部屋へと向かった。


衣装「あなたがタクシーの運転手ね。
    えーと、早速だけど、ジーパンと、白のTシャツって持ってるかしら?」

俺  「ジーパンとTシャツですか・・・?持ってますけど、またどうして?」

衣装「どうしてって、タクシーの運転手に決まってるじゃない。
    ・・・日本のタクシーの運転手って
    ジーパンにTシャツ姿じゃないの?ほら、ニューヨークみたいに。」

俺  「実は、日本のタクシーの運転手は、スーツを着てるんです。
     いま僕がしている格好が、日本のタクシー運転手のそれです。
     それに、何と会社によっては制帽まであるんですよ。

     ここに資料を用意してきましたので、どうぞ。」


衣装「へえー、用意がいいわね!!」

    ・・・へえ、なるほど。
    結構フォーマルなのね。パイロットみたいね。

    これ、カラーコピーしていいかしら。
    大至急、帽子のエンブレム(帽章)を作って貰わなきゃ。

    調べてくれて、ありがとう。感謝するわ。」

俺  「こちらこそ。どうぞ宜しくお願いします。」


・・・あぶないあぶない。
もう少しで、ジーパン姿でタクシー運転手を演ずる所だった。

必死でかき集めた約100ページの資料が、さっそく役に立った!
頑張った甲斐があったってもんだ。


スタッフの案内で、俺が運転する「タクシー」を見せて貰った。

左ハンドルの「フィアット500」いう赤い車だった。
ルパン三世が映画の中で運転している、あの小さい小さい車だ。

そして俺が働くタクシー会社は・・・「キハダマグロ タクシー」というらしい。


うん。


+++


さて、このテレビシリーズは、
「シチュエーション・コメディ(通称:シットコム)」と呼ばれる形態だ。

「テレビドラマ」というよりも、
「テレビ芝居」と言った方がしっくり来るかもしれない。

かの有名な「フルハウス」を思い浮かべて欲しい。
・・・そう、あれが「シットコム」だ。


衣装合わせも終わったので、
俺はメインキャストのリハーサルを見学する事にした。


見始めてすぐに、俺は頭から血の気が引いて行くのを感じた。

 ・・・ちょっと、冗談だろ。勘弁してくれ。

セリフの進む速さが、ハンパじゃない!
洒落にならないくらい速い!速すぎる!

だって、俺が台本を目で追うスピードよりも、
彼らの演ずるスピードの方が速いんだ。


 ・・・これが「シットコム」の標準スピードなのか!?


俺は縮み上がった。
まさか、ここまで世界が違うとは。

メインキャストは、その目にも止まらぬスピードの中で、
しっかりと決めるべきジョークを決め、
伸び伸びと演技していた。

数ページに渡る長いシーンでも、
セリフを完璧に覚えてスラスラとこなしている。


・・・凄い。正真正銘のプロだ。全く太刀打ちできない。


こりゃまずいぞ。

俺のセリフは2行だけど、
果たしてこのスピードについていけるんだろうか・・・


撮影まであと3日。

子供向けだろうが何だろうが、俺には関係ない。
本気で役作りに没頭しようと思う。

投稿者 ユウキ : 23:43 | コメント (2)

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